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待合室の午後

寄る年波で病院には定期的に通うようになった。それでもこの総合病院というところは依然お年寄り(俺なんかより遙かに先輩方)の縄張りなんである。こうして待合室なんぞに座っていると、何というのか、肩身の狭い思いに囚われ、実に居心地が悪い。

だいたいここのレギュラーポジションを占めておられる方たちにしてみれば、俺のごとき若輩、単に不摂生がたたってファーム送りにされてきたという、要するにゴクツブシ扱いである。いたたまれないことおびただしい。

と、いったテキストも、やはり例によってポメラを広げて打ち込んでいたわけだが、そのときベンチの向かいに座っておられた70代前半とおぼしき紳士が「君、それはワープロですか?」と尋ねてこられた。

いえ、まーその、これは"ポメラ”と申しまして、ワープロのように自在に文書ファイルを管理することは叶わんのですが、パソコンで言うところのテキストファイルの形で、あくまでメモだけを書き綴るという、要するにテキストエディタをそのままハード化したような、ちょっと変わった機器なんでございまして…。

すると紳士は「なるほど、それでワープロより小さくまとまっているわけですね」と納得のご様子。「私なんぞは悪筆ですから、そういうのが手元にあると、ちょっといいかもしれないなあ」とうらやましげ。

「ワープロをお使いでしたか」
「ええ、パソコンはよくわかりませんが、キーボードはタイプライターの頃から馴染んでおりますので」
伺えば、ずいぶんローカル出版関係のお仕事で働いてこられた方らしかった。今は定年で、のんびりやっておられるとのこと。

「ちょっと触らせてください」

それはもう、俺などより遥かに洗練された指使いで入力された。

「目に青葉 山不如帰 初鰹」

「不如帰がちゃんと変換されていますね」
「一応、ATOKです」
「一太郎の?」
「ええ」

その後しばらく、ずいぶん興味深い会話をお付き合いいただいた。
「お仕事の最初の頃、つまりタイプライターの頃というのは、どういう入力方式だったのですか?」
「私の時は、最初は英文タイプだったんです。そのうち日本語文書もタイプで処理するようになって、会社でね、ローマ字入力を叩きこまれましたよ。ですからワープロも結構ね」

「ただ、昔は文章を書く、それだけのための道具というか、まあそういうものがあったわけじゃないですか。書の道具にしても、万年筆にしても、鉛筆だってそうですよ。そういうのは全部、自分でケアしなきゃいけなかった。そういうのが普通でしたね。それから機械化っていうんですか、タイプライターって、当時としてはかなりすごい機械だったと思うんです。私も夢中でしたね。和文タイプの開発があって、これが今のカナ入力の基本になっているのかなあ。それから技術がどんどん進化していわゆるワープロになったわけでしょう。ワープロでびっくりしたのは、書き直しができるっていうことでした。つまり文書の編集ですね。これは画期的でした。…ポメラもそれができるんですよね。ならこれは立派なツールですよ」

丁度、Windows95ぐらいの頃に、転職なさったという事なので、その後のデジタルツールの嵐のような変革は、あまり実感しておられなかったとのこと。

「タイプライターに比べるとこのキーボードは小さ過ぎませんか」
「いや、私、初期のワープロのポータブルタイプも使っていたのですが、これはむしろ打ちやすいですよ。ノートパソコンというのは私、経験がありませんが」
「ではパソコンはお使いになってらっしゃらない?」
「いえ、私、もっぱらこれなんです」

そう言って、紳士は愛用のスマホを見せてくれた。逆に俺の方がスマホに距離を置く、時代遅れのガラケー信者なわけだから、この邂逅はかなり皮肉なものに思えたのだった。

「でも、このポメラっていいですね。私も買っちゃおうかなあ」

紳士はいつまでも、ニコニコと俺のポメラDM10を撫でまわしていた。

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